『天佑なり』上読了
この本は、上巻と下巻があり、その上巻の方を読み終わりました。
是清翁を題材とした小説ということで、わたくしのような人間が読むとちょっと角度をつけて読んでしまうところがあります。特に最初の部分で是清翁が奥さんと「ハワイでも行こうか」みたいな話をした、というシーンがあります。ここに引っかかりました。戦前のことですから、海外旅行というものは、今のように簡単ではありません。今だったら、老夫婦がハワイに旅行なんて、訳ないことですが、当時は、船で太平洋に乗り出すという冒険みたいなものです。そんな話を聞いたことがないので、ここは「心象スケッチ」かな?とも思いました。小説なので、当然作者の「心象スケッチ」があって当然ですし、そこが作家の腕の見せどころとも言えるでしょう。ただ、であるならば、上記のような事情も書かないと現代の読者に対しては不案内の誹りは免れません。はっきりと軍配は下せませんが、ちょっとやらかしたっぽいですね、ここは。ただ、はっきりとは言えませんので、もし、そういう情報が見つかりましたら、ここで明らかにするとともに謝罪させていただきたく思います。
まあ、引っかかったのはそこだけで、あとはスラスラと読めました。是清翁の前半生は、ほとんど記録がなく、『自伝』くらいしかまとまった資料がないそうですが、『自伝』の内容が豊富すぎて、そのまま載せたら読者が消化不良になってしまうくらい波瀾万丈なので、小説家からすると「どこを削るか」という勝負になってくるんだと思います。
そんな中で注目したのが、大阪の学校の校長就任を断った話です。本作では『自伝』説を採っていますが、実は昔とある雑誌に「女の子と仲良くなって、離れられなくなって断った」みたいなことが書かれていました。これが本当がどうかはわかりませんが、『自伝』説の仏教談義がどうのこうのというのはちょっと不自然ですよね。是清翁は、結構、話を盛ったり、面白おかしくする癖があるとは思いますが、『自伝』説はちょっとないかな?と思っております。上記、『雑誌』説も、もしかしたら、是清翁が、どこかで盛った話を間に受けて書いただけかもしれませんね。
まあ、その辺を面白おかしく装飾していくのも小説家の仕事だと思います。わたくしは、そういうことで怒ったりしません。まあ、「心象スケッチ」が面白くなかったら怒りますが、そういうのを見分けていくのも歴史小説を読む楽しみと言いましょうか、でないと歴史小説なんて退屈で読めたものじゃない代物になってしまいますよ。
あと、読んでいて思ったのが、女性たちが生き生きと描かれていることです。『自伝』を読んでも奥さんがどういう人だったかという部分がいまいちわかりにくいのですが、この小説では、最初の奥さんも二人目の奥さんもちゃんとしたキャラクターとして描かれていて好感が持てました。
ただ、是清翁がいちばん愛したのは桝吉さんだと思うのですが、この人の「それから」が気になりますね。あれだけ関係の深かった人ですから、死ぬまでほったらかしということはないような気もするのです。よしんばほったらかしだったとしても、その理由が絶対にあると思います。一読者としては、その辺をほったらかしにせず、「心象スケッチ」であったとしても、書いて欲しかったかな、と思います。
まあ、まだ上巻だけの読了なので、感想もこの辺にしておきます。


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