大躍進
馬寅初さんについて、書いたんで、ついでに大躍進についても書きます。
半日デモ(ママ)が華やかなりし頃、欧米のマスコミが「中国の教科書も歴史をごまかしている」と批判しました。右翼系ブロガーのみなさまが、「それ見たことか」とばかりに取り上げていたので、ご存じのかたも多いでしょうが、欧米マスコミが「ごまかしている」と指弾した歴史はそのほとんどが「南京」ではなく、「大躍進」を例に挙げていました。
かの有名な文化大革命(文革)については、中国共産党も「あれは間違いだった」と認めております。まあ、認めると言っても、口で言っているだけで、本当に反省しているものが採るべき行為、当時の被害者に対する真摯な謝罪や賠償行為などにはほとんど手をつけていませんが。ただ、「大躍進」については、教科書にすら載っておらず、どうも「あまり触れたくないこと」のようです。(とはいえ、このことが天安門事件並みの「言ってはならない事件」になっていると言うことではありません。)
さて、「大躍進」ですが、元々は「社会主義はすばらしい。資本主義なんかダメだ。今は、建国したばかりだから、資本主義国に及ばないが、中国は短期間のうちに資本主義国を抜くだろう」という趣旨のようです。まあ、趣旨はご立派なんですが、それがそのうちに飛躍して「とりあえずアメリカには勝てないかも知れないが、その次ぎのイギリスぐらいならすぐにでも追い抜けるわい」という妄言に変わり……いや、妄言も言っているだけなら害はないのですが、「きっと抜ける。具体的には鉄鋼生産高なんて、今すぐ抜けるもんね」と具体的目標まで出てきたからタチが悪いというか何というか──戦前の日本もそうですが、こういう精神論というか、美辞麗句の建前論を利用して、みんなを鼓舞(扇動)するのは良いのですが、扇動者までが、それを信じ込んでしまうと、全体が暴走して収集がつかなくなるものです。
……で、どのように暴走し、収集がつかなくなったかと申しますと、まず、鉄鋼については、とにかく短期間でイギリスの生産量を抜かなければならなくなったワケです。しかし、実際に鉄鋼を生産しようとしたら、原料の鉄鉱石を採掘するか、輸入するかしかないのですが、当時の中国にはそんな力はありません。そこで、仕方がないので、当時一般人民の家にあった鉄製のもの──鍋やクワなど──をすべて溶鉱炉に放り込んで……おっと、溶鉱炉というのも、たいそうなものです。当時の中国には、イギリスの製鉄所のような溶鉱炉はありません。仕方がないので、各世帯毎に小さなカマをつくって、そこに放り込んでとりあえずくず鉄のかたまりを作ります。このくず鉄のかたまりは精錬もされていなければ、特殊加工も何もない──けれん味を排した正真正銘・正統派のくず鉄でした。つまり、実際に使っていた調理器具や農具をつぶして、一生懸命にくず鉄を作っていたのです。
これを一地方だけでやっていたのなら、笑い話ですみますが、全国レベルで大々的にやったんだから救いがありません。男たちは、くず鉄づくりにかかりきりになり、農作業をするのは女性だけになってしまいました。女性たちも、農機具が無いから、全部手で農作業をこなすと言う原始時代のような状態です。その上、スズメは農作物を食べるからと言う理由で、全国的にスズメを退治する運動を繰り広げ、結局スズメを天敵としていた害虫の大量発生を招くなど、いろんな要素があり、農業生産が激減しました。もちろん、スズメ退治にも大量の人手がかかっているのは言うまでもありません。
それ以外にも天災の影響もあったようですが、これだけの人的問題を引き起こしたあとでは、単なる言い訳?に思えます。ともかく、この間、中国では2000万人とも5000万人とも言われる人たちが餓死したのです。
ちなみに以下のリンクによると大躍進はたったの一年か二年くらいで終わっています。長期間(約10年)に渡った文革でも、人口が大量に増えている(のも問題ですが)ことを思えば、密度として大躍進の失政度が文革を遙かに越えることは疑いのないところでしょう。
大躍進政策 - Wikipedia
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