春草明年緑王孫帰不帰
現代中国語の文法に肯定型と否定型を並べて疑問文にするというのがあります。
初学者のころ、ニフティサーブなどのパソコン通信でいろんな人と交流しており、その中にこの疑問型について、「行くの?行かないの?」みたいな厳しい問い方に感じるというご意見が書かれていました。このご意見には、当時から少し違和感を感じていたのですが、自分の中ではなんとなく「この用法は口語的だな」という印象をもっていました。
それが実は『唐詩三百首』の中にこの用法がありました。標題は、王維の五言絶句の抜粋です。つまり、少なくとも唐の時代にはあったということです。王維の五言絶句にあるということは、この用法は多分文語なんでしょう。要するに自分がなんとなく思っていた「口語的だな』という感想は間違いでした。
あと、「厳しい問い方」という前述のご意見も、この五言絶句全体に流れる牧歌的な空気から完全に否定できます。この詩の最後の部分、疑問文の形をとっておりますが、むしろ願望というか、実現不可能な願いというか、そんな思いを感じます。感じられるのは、厳しい問い方でなく、「帰って来ないのかい?」みたいな優しい問いかけです。
英語で「why」から始まる疑問型をとりながら、実は提案するという文型があります。これも、はじめて見た時、「なんで〇〇しないんだ」みたいな問い詰めるような言い方に聞こえてイヤな感じがしましたが、間違いです。
以上、外国語を日本語に直訳して、日本語の語感で判断することの愚かさと王維は五言詩も上手いなあ、という話でした。
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